$36.79
- Softcover
- 160 pages
- 183 x 257 mm
- ISBN 9784422700991
- Japanese
- Feb 2025
昭和期日本の住宅学を切り拓いた住宅学者、西山夘三(1911-1994)が、戦後二度にわたり、「軍艦島」こと長崎県・端島を訪問調査し、カラーを含む住宅と生活の写真を数多く撮影していたことは、ほとんど知られていない。
本書は、それらの未公開写真を中心に、当時の調査レポートや資料を加え編集し、活気ある軍艦島の生活を誌上で再現した、貴重なビジュアルブックである。
廃墟となった後の写真、当時のモノクロ写真などはすでに多く公開されているが、これほど多くのカラー写真が公開される例は非常に珍しい。
また、炭鉱関係者や写真家ではなく、人とすまいを見つめつづけた住宅学者の視点で残る当時の資料はほぼ唯一と言える。
世界にも類を見ない、高密・高層炭鉱住宅群を、日常のくらしを見据えた視線で捉えた写真とスケッチの数々は、日本を代表する炭鉱であった軍艦島の栄華と、特異な環境に生きる人々の生活を生き生きと伝えている。
さらに本書には、西山夘三・扇田信による調査レポート「軍艦島の生活―長崎港外、三菱端島炭礦の見学記」(初出、『住宅研究』1954年3月号)に加え、西山ゼミの卒業生で閉山後も端島調査を続けていた片寄俊秀による論文「軍艦島の生活環境(その1、2、3)」(初出、『住宅』1974年5,6,7月号)および「付記・厳しかった端島(軍艦島)の調査」(本書のための書き下ろし)を収録。
1952年・1970年の調査時を中心に、明治の近代化から高度経済成長までを支えた端島における歴史を、人々の生活の視点からつかむことができる。
ビジュアル資料の貴重さ、ほかにない観点での調査報告など、軍艦島、産業遺産、近代化遺産を語るうえで見逃せない一書である。
【端島(軍艦島)】
長崎県長崎市の沖合に浮かぶ、面積約6.3ha、周囲約1.2kmの小さな島。
海底炭鉱として明治20年から開削が開始され、明治23年からは三菱による本格的な炭鉱経営が開始された。
戦間期と戦後に二度の高出炭期を迎え、国内有数の優良炭鉱であった端島には、多くの設備と人的投資が行われ、その結果狭い島内には、大量の鉱山設備と鉱員用の超高層住宅が迷宮のように立ち並ぶこととなった。その堂々たる威容からついた呼称が「軍艦島」であった。
また端島はその外観のみならず、全島が三菱端島礦の所有地であり、会社関係者のみが居住しているという点でも特殊であり、その特異な条件下での人々の暮らしの様子は、本書収録のレポートが詳細に報告している。
1974年の閉山以来廃墟の島と化していたが、その独特な景観美、滅びゆく街並みの美しさから、一部の廃墟マニアにとって聖地とまであがめられる存在となる。
2001年に三菱マテリアルより長崎市に無償譲渡され、2009年より上陸ツアーが開始。現在も引きも切らぬ人気を呼んでいる。
また、2015年には「明治日本の産業革命遺産」のひとつとして世界遺産登録され、世界的にもますます多くの注目を集めている。